あの時からずっと、君は俺の好きな人。
水野くんはしばらくの間何も言わずに、私を見つめ返した。否定しないのだから、やはり加藤さん達が言っていたことは本当なのだろう。


「私はあの事故の後から……うまく笑えない。何事にも本気になれない」


あんなに頑張っていた水泳だって、あれ以来1度もやっていない。


「水野くんは私と一緒なのに。どうしてそんな風に生きれるの……?」


少し涙ぐみながら私は言った。ーーすると。


「ーー俺の両親さあ。二人とも医者だったんだよね」


水野くんが微笑みながら、いつもの軽い口調で言った。私を落ち着かせるような、優しい声音にも聞こえた。


「医者……?」

「うん、父親が緊急病院の外科医で、母親が精神科医。ーーだからさ」

「うん」

「父親も母親も、普通の人よりは死が身近にあったらしくてさ」

ーー確かに。緊急病院の外科医なら交通事故の怪我の治療をするだろうし、精神科医から患者が自殺することなんてざらにありそうだ。
< 84 / 229 >

この作品をシェア

pagetop