アーティスティックな男の子。
「今日歌ったやつ。」
「3曲ありますよ。」
「じゃあ一番最初の曲。《雨月》がいい。」
「バラードですね。分かりました。」
『…なら大丈夫か。』
「最初は俺ら二人で。そん次は秋月、俺の順番。後は適当にな。」
「…分かりました。」
『…OK、準備出来たみたいだよ。』
スタッフさんから丸を貰った。
最初は歌のソロから。
そしてだんだんとピアノが入り、ドラムが入り、ベースが入り、ギターが入る。
個々に映える二人の声は、なぜだか溶け合うように響く。
『…っ…。』
いきなり始まったデュエットは、
全く違和感の無い、むしろそのままの曲だったかのように、合わさっていく。
誰もが見惚れる、二人の姿。
これはヤバいね。
てかどっちもタキシードでまるで王と王子みたい。
はー、つか腹減った。眠い。
だがこういう余計な事を考えているということは、
私の限界が近い。
せめてこの曲は弾かないと。
『……。』
《ZERO》とは違ってこの曲は流れるように弾く曲。
和音連打ではないからまだ大丈夫。
だけど、1音1音の幅はあるから、外すと後々影響する。
左手の低音から高音へと移動する、クライマックスは気が抜けない。
だけど、まあ、
私が間違えたってこの二人はすぐ気付いてカバーしてくれるんだけどね。
ここは気楽に、かつ気は抜かない程度に。
大喝采で幕は降りた。
「かなり時間使いましたね。」
「特別枠だからな。」
バンッッ
「キャーっ!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「きゅっ、きゅぅぅぅ!!?!?」
「あー、落ち着け、みんな。大丈夫だから。」
「あ…そう言えば保健医でしたね!」
「すっかり忘れてました…!」
「それに、演奏する度に倒れてるからな。」
「そうなんですか?」
「それはそれでヤバい気が。」
「まあ、とりあえずみんなは持ち場に戻って。ほら、今から閉会式だろ。」
ピアノの楽譜台に顔をぶつけてるゆきをまず持ち上げて、そこから横抱きならぬお姫様抱っこをする。
「秋先生とゆきちゃん、絵になりますね!」
「さすがご兄妹ですね!」
「こんなイケメンに俺もなりたい。」
「じゃ、秋月は席に戻れよ。」
「分かりました。」