アーティスティックな男の子。




葉山ゆきの“月光”が聞こえる。


第3楽章はかなりの技術が必要になる。それを弾かせるという教師は、余程この葉山のピアノに絶対の評価があるということ。


「…上手いな。」


「そうだね。流石は藤嶺の天才作曲家だよ。」


「副科なんて、何か勿体ないな。」


「副科だとね。本科だって言われても全く違和感無いからね。」


「…けど、何音か抜けてる気がする。」


「え?そうなの?」


「とりあえず弾いてる、って感じがする。」


「詳しくはよく分からないけど、桃李が言うならそうなんだろうね。」


ゴソゴソ…。


「…桃李、透…。」


「あ、おはよう、音夢君。」


宮音夢ミヤネム、音楽科1年、専攻はピアノ。


生徒会役員、書記。


「…誰、弾いてるの?」


「ふふ、見てみたらどうかな。多分、びっくりするかもね。」


「…ふーん…フワァ…行ってくる。」


「うん、行ってらっしゃい。」


「…静かに入れよ。」


「うん。」










『うーん、やっぱり難しいなあ…。早々上手くはいかないよねぇ。』


「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲、ピアノソナタ第14番嬰ハ長調、作品番号27-2、別名『月光ソナタ』…の、最も有名な第1楽章…。」


『ッッぎゃああああああああ!!!!!』


ガタガタッ


バサァァッ


『うわああああああ』


色々と落ちた。自分も含めて。


「…大丈夫?」


すっ、と手を差し出す少年。


『…だ、大丈夫…ありがとう…。』


「…どういたしまして。」


ガチャ


「凄い音したけど、大丈夫?」


『なんとか。』


「透、静かに入ったよ。偉い?」


「うん、偉いね。」


静か過ぎて気付かなかったし。


いつからいたんだし…。


「…驚かせちゃった。ごめんなさい。」


『可愛いので許す(即答)』


可愛いは正義。


『…というか、誰?』


「…宮音夢。音楽科1年、専攻はピアノ。」


すげぇキラキラネームだ。


『あ、同じ音楽科なんだ。』


「うん。」


『私はh』


「ゆきのことは知ってるよ。」


『…あ、うん、そうだね…。』


さり気ない名前呼びはもういいです…。


『数々の悪行で知られてるもんね…。』


「自覚、してるんだな。」


『そりゃあ…まあ…ね?こう、実行してる時は気付かないんですけど、後々ね?反省するんですよ?ええ。』


「そうか。」


「悪行?」


『数々のね…ってあれ、知らない?私の悪行。』


「知らない。」


『?じゃあ何で知ってるの?』


「志貴から。」


『え"っ』


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