死にたがりの灰田くん
声を掛けたのは私の方なのに、彼の瞳に捕らえられたまま、1ミリたりとも動けなくなってしまって。
そのまま、世界が止まったみたいな感覚に陥っていた。
彼もきっと、一時停止のボタンを押したみたいに、固まっていた…ような気がする。
「ねえ」
空気を揺らしたのは、高くもなく低過ぎもしない、澄んだ声。
「なんか用?」
表情ひとつ変えることなく、淡々と紡がれる言葉は、声を張っているようには見えないのに、私の耳にスッと届いた。
なんか用、って。
この状況で声を掛けた意味が、分からないの?
「そんな所で何してるんですか?」
「なにって…死ぬとこだけど」