死にたがりの灰田くん

声を掛けたのは私の方なのに、彼の瞳に捕らえられたまま、1ミリたりとも動けなくなってしまって。

そのまま、世界が止まったみたいな感覚に陥っていた。


彼もきっと、一時停止のボタンを押したみたいに、固まっていた…ような気がする。



「ねえ」



空気を揺らしたのは、高くもなく低過ぎもしない、澄んだ声。



「なんか用?」



表情ひとつ変えることなく、淡々と紡がれる言葉は、声を張っているようには見えないのに、私の耳にスッと届いた。


なんか用、って。

この状況で声を掛けた意味が、分からないの?



「そんな所で何してるんですか?」

「なにって…死ぬとこだけど」



< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop