死にたがりの灰田くん


『寒いでしょ。うち近いから寄ってく?』



普段なら絶対に応じないような誘い文句に乗せられてしまったのは、多分、純粋に彼が気になるから。

それと、あわよくばバスタオルか何か貸して貰えるかもしれないという打算。







「ねえ、なんで後ろ歩くの?隣来てよ」

「やだ」



ズボンが水を吸った所為でひょろ長い体躯をよたよたと揺らす学校一の有名人は、ずぶ濡れになっても常人とは一線を画していた。

その後ろを数歩遅れて歩いていた私を振り返り、彼は唇を尖らせる。


今まで一体どれだけの女の子が、この表情に落とされたんだろうか。



「俺の隣を歩きたがらないなんて、変わってるね」

「そりゃ、灰田くんが今まで食ってきた子たちとは違うでしょ」

「たしかに!」



天を仰いで高らかに笑う灰田眞尋は、全身全霊で生きていた。



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