孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
始まりは突然に
采鈴英(さいりんえい)は、今自分が置かれている状況がいまいち把握できないでいた。はっきりわかっていることは、自分が場違いな所にいるということだけである。

跪いて頭を垂れている鈴英には、自分と両隣に同じく跪いている人物の手が見える。両隣の人物の手は白くすべすべして指は細い。それに右隣の人物の手にいたっては、どうやったかはわからないが、長く整えられた爪が綺麗な赤色をしていた。きっと苦労など知らずに育った手だ。

それに比べて自分の手はどうだろう。日焼けした手は荒れており爪は短く先が黒ずんでいる。
手をついてる床は、綺麗に磨かれており鈴英の顔が映りそうなほどで、自分の手は、この床に触れることすら恐れ多いような気がして、鈴英はため息をつきたくなった。

ことの始まりは、数日前にさかのぼる。鈴英がいつものように畑仕事をしていると、見知らぬ二人組の男に声をかけられた。


「そなたは采鈴英か?」

「はい。そうですが。」

声をかけてきた男は、鈴英が暮らす村では見慣れない綺麗な装いをしていた。その男は鈴英の頭のてっぺんから足の先まで見た後、鼻で笑った。

その態度に、鈴英はムッとした。確かに着ているものはお世辞にも立派とは言えない。しかも、畑仕事中なので土まみれだ。そんなことわかってはいるが、いきなり鼻で笑われれば良い気はしない。
だが表面には出さなかった。明らかに身分の高そうな相手にそのような態度を取るとどんな罰が待っているかわからないからだ。

二人組は鈴英のことをほったらかしにしたまま二人でこそこそ何かを話している。どんな要件で話しかけてきたかは知らなかったが、鈴英には迷惑でしかなかった。
今は野菜の植え付けをする時期だ。今、まともに畑仕事ができるのは鈴英の家では鈴英だけだ。

鈴英の家は5人家族だが、父は村の若い男たちと総出で隣町へ新しく橋をつくる手伝いに行っている。母は先日、弟を出産したばかりで、もう一人の妹もまだ小さい。

そんなこんなでものすごく忙しいのだ。お偉いさんのなんだかわからない要件に時間をとられている場合ではない。

内心イライラしていると、話がついたのか、男たちは鈴英の方を向いて、こう告げた。


「我々とともに、王宮へ来てもらおう。」

「え?」

「これは帝のご命令だ。」


その一言で鈴英は意味もわからないまま、拒否権なく、王宮へ連れて来られたのである。

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