孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
「鈴英の事情はよくわかった。では、こうしてはどうだろう。鈴英の父上に手紙を書けばよい。使者を送り、事情を話して、父上が家に帰れるように手配しよう。そうすれば、畑仕事をする人手ができるであろう?」

「でも、それじゃあ、橋を作るのが遅くなってしまうわ。」

父が作りに行っている橋は、鈴英の住む村やその近隣の村にとって無くてはならない橋だ。

古い橋が、流石に古すぎて危なくなってきたので、新しくすることになった。

そのため、橋の完成が遅れるのも困る。
普段は優しすぎて、ちょっと抜けている父だが、橋作りには無くてはならない存在だ。じゃなきゃ、働き手が鈴英しかいない状態になるのに手伝いに行ったりしない。

「では、橋を作る人材もこちらで手配しよう。」


「そんなこと、決めていいの?」

「そなたの担う役割は、それを簡単に決めても良いほど重要なのだ。」

鈴英は、じっと大神官を見つめた。薄い布で遮られて顔を見ることはできない。だが、大神官もじっとこちらを見つめているのはなんとなくわかる。


「わかった。引き受ける。」

「ありがとう。」

礼を述べた大神官は、おもむろに立ち上がった。


「もう行っちゃうの?」

「あぁ」

静玉の方を見ると、静玉は無言で頷いた。鈴英は見送るため、立ち上がり、大神官の後をついて行く。


大神官は、部屋を出ようとして、何かを思い出したように立ち止まり、振り返った。


「そなたなら、健康そうな子が産めそうだと思った。」

そう一言残して去って行った。


その一言は、おそらく『神のお導き』によって選ばれたことに納得がいっていない鈴英への気休めに言ったのだろう。


『健康そうな子が産めそうだ』というのは、鈴英の農村でもたびたび聞かれる褒め言葉である。しかし、それがどういう人物に対して言われれる言葉かを重々承知している鈴英は複雑な気持ちになったのである。
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