孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
「もっとごねられるかと思いました。」


大神官を見送った後、入り口で立っていた鈴英に、静玉は声をかけた。


「うーん。だってちゃんと答えてくれたし。何かいい人だったし。」

振り返った鈴英は苦笑いをしていた。


鈴英をここに連れてきた役人は、鈴英を小馬鹿にしていた。どうせ選ばれるわけがないと思われていたのだと、今ならわかる。

鈴英のようなど田舎のど庶民にとって、貴族や、神官など雲の上のまた上の人である。自分を選んだ時の大神官は何だか偉そうだったし、さっきもそういう態度をとられるのだと思っていた。

だが、実際会ってみるとその印象はがらりと変わった。

声を荒げた鈴英に対して、大神官は真摯な態度を返してくれた。鈴英の憂いを聞き、それを解消すると約束してくれた。

その大神官が、自分が帰ったら困ると言う。鈴英はそれを聞いた時、『この人を困らせるのはちょっと嫌だな』と思った。

幸い、父を家に呼び戻してくれると言ったし、父が家に帰るなら、自分がいない方が家族もいいのではないかと思う。なぜなら、今の母は鈴英にとっては実の母ではないから。そう考えると、確かにこれは神のお導きなのかも知れないと思った。


「それに、ありがとうって言われちゃったし。」

あれには驚いた。鈴英には大神官がどれだけ偉いかはさっぱりわからないが、本来なら自分が会うはずもないくらい偉い人だということはわかる。その偉い人が自分に礼を言うなんて思ってもみなかった。

「まぁ、最後の一言はいらなかったけど。」


これには静玉も黙って頷いた。

頷いた静玉を見て、鈴英は笑った。何だか怖そうな人だと思ったけど意外にうまくやっていけそうだと思った。


一方の大神官が、「最後の一言は余計だった」とお供の者から指摘を受けたのはことは、鈴英は知る由もない。
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