孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
静玉がそんなことを考えている間、話がすんだと思った鈴英は、せっせと文字の練習をしている。紙いっぱいに書かれた『李静玉』と言う文字。他ならぬ静玉の名前だ。


「見て見て、静玉さん。ちょっと上手に書けたと思わない?」

そう問われて、紙を覗き込めば、確かに最後に書かれた『李静玉』はなかなか上手くかけていた。


「確かに、上手に書けていますね。」

静玉がそう言うと、鈴英は嬉しそうに笑ってまた、せっせと字を書き始めた。紙いっぱいに書かれた自分の名前が呪いの文字のように見えるのは、ひとまず気にしないことにした。

「あ、そうだ。」

「どうしました?」


「ねぇ、もしすぐに妊娠したら、赤ちゃんが生まれるのは冬になるけどいいの?」

「?」


鈴英の質問の意味が静玉にはわからなかった。

「それが、何か問題なのですか?」

「いや、それでもいいならいいや。」

鈴英は、そう言ったが、静玉には理由が全く分からず、気になる。ジッと鈴英を見ると、静玉の視線に気が付いた鈴英は困ったように笑った。


「うちの村はね。冬がとっても寒くて、お医者様がいないの。だから冬に生まれた子がもしも生まれてすぐに病気にかかっても、何もすることが出来ないの。近くの村にお医者様を呼びに行くにしても、雪が深くて時間がかかりすぎたりするの。だからね、うちの村では、だいたいの人が暖かくなる頃から夏にかけて赤ちゃんが生まれるようにするのよ。」

それを聞いた静玉は驚きで声を失った。想像もつかない答えだったからだ。

「ここでは、そんなこと考えなくていいのね‥‥‥」


鈴英は、どこか遠くを見ているような目で呟いた。その瞳にはどこか悲しげな色が浮かんでいた。
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