孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
遥か昔、シン王国はひどい干ばつに襲われた。何十日も雨が降らず、食物は枯れ、川は干上がり、人々の生活は困窮した。それを救ったのは一人の若い神官だった。彼は聖域とされる山へと入り、水を司る龍に出会った。神官は龍に雨を願った。するとその龍は神官に言った。「対価はそなたの孤独だ」と。そしてその血を引くものが孤独であり続ける限りシン王国に干ばつが訪れることはないと言った。神官は、龍に『孤独』を約束した。そして、雨は降った。神官はその功績から大神官と呼ばれるようになり、大神官はその血筋へと受け継がれる。以来、シン王国は水と緑が豊かな国としてあり続けている。


大神官は、横一列に並ばされて跪いている女たちを見下ろしていた。十数人並んでいる女たちの中に、一人だけ毛色が違う娘がいた。ほかの女たちが煌びやかが衣装を身にまとっている中でお世辞にも綺麗とは言い難い格好だった。かろうじて清潔ではあるものの、その衣装は、宮中で働く侍女よりも粗末なものだった。本人も場違いだと自覚しているのか、うつむいて顔が見えないにも関わらず、居心地が悪そうなのがまるわかりだ。

「右から3番目。」


気づけば、そう口にしていた。その言葉に周りがざわつき始めたのがわかる。だが大神官は気にしなかった。

「聞こえぬか、右から3番目の娘だ。面を上げよ。」

大神官の発言に、周りがざわついているのは鈴英にもわかった。右から3番目って誰だ?そう思ってそっと右を見ると、自分より右には2人しかいないのに気が付いた。大層綺麗な2人のお嬢さんが、驚いた顔で鈴英を見ている気がする。あれ?と思って左を見ると、こちらには10人以上のお嬢さんがいたが、右の2人同様驚いた顔で鈴英を見ている。気のせいではない。

まさかと思って、鈴英が前を見ると、顔を布で覆っている人がいた。そしてその人は鈴英を指さして言ったのだ。


「そなたが私の子を産むのだ」


鈴英は、ただ茫然と目の前の人物、大神官を見つめた。
< 2 / 28 >

この作品をシェア

pagetop