孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
ことの発端は、数日前にさかのぼる。鈴英は、後宮の端っこを歩いていた。

鈴英の部屋は後宮の端っこにある。本来、後宮とは、帝の妃が住まう場所だ。鈴英は帝の妃ではないが、王族でも神官でもないので、他に部屋を構えるのに妥当なところが他にないのだ。


初めは、礼儀が全くなっていなかったため、部屋に軟禁状態だった。しかし、立ち振る舞いも、ようやく及第点がもらえるくらいになったので、部屋のまわりくらいなら出歩いても良いと、静玉から許しが出たのだ。


鈴英は、身体を動かすのが好きだ。というより、家では貧乏暇なしの生活を送っていたため、生まれてこの方、一日じっとしていた記憶なんてないに等しい。そのため、出歩くのを許可された鈴英は、さっそく足取り軽く、後宮の手入れされた庭を散策していた。


もちろん、後には、静玉が付いて回る。


(しかし、私ってば本当にすごい所に来たんだな~)

細部まで行き届た庭を見て、鈴英はつくづくそう思う。

鈴英の故郷はど田舎で、緑に囲まれていたが、ここの緑はそれとは全く違う。鈴英の故郷の花々は自由にありのままに咲いていたが、ここ後宮の花は、花一本までもが計算されて作られている。

圧巻ではあるが、つい数日まえまで野生児同然だった鈴英からすれば、行儀が良過ぎて物足りない感じである。

それでも、胸いっぱい吸い込んだ花の香りは連日慣れないことで疲弊した鈴英を癒してくれた。ボケーっと庭を眺めていると、一人の男が目に入った。

(珍しい。)

と、鈴英は思う。宮中で生活するようになって、鈴英はほとんど女しか見ていない。というか、大神官とその付き人しか男には会っていない。


何となくじっーっと眺めていると、後で静玉の息を飲む音が聞こえた。
どうしたのだろうと思い、後を振り返ると、静玉が、あわてて頭を下げたところだった。

「鈴英様、頭をおさげください。」

静玉が小声でささやく。鈴英は素直にそれに従った。静玉には、相手が誰だかわかっているようだが、鈴英には見当もつかない。こういう時は素直に従っておくのが最善の策だ。

そうこうしているうちに、相手がどんどん近づいてくるのがわかる。そして、鈴英の目の前で立ち止まった。

(・・・えーっとこういう時はどうするんだっけ?)

自分から話しかけて良いのか。悪いのか。

通常、身分の低い者から挨拶するのが基本だが、相手の身分が高すぎる場合は、勝手に話しかけると不敬にあたるらしい。

それを聞いた時は、結局どうしたらいいんだよ。と思ったが、今まで女官しか会っていなかったから問題なかった。

しかし、今、再び思う。話しかけるべきか、待つべきか。


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