孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
大神官がお供を連れて部屋に入ると、そこにはふくれっ面の娘が座っていた。鈴英だ。大神官の方を睨んでいる。

大神官の顔は薄い布で隠れているため、鈴英からは見えないはずなのに、大神官には、鈴英がしっかりと自分の目を見つめているように感じた。大神官はたまらず目をそらした。

大神官とは、生まれたときから、大神官になることが決まっている。なぜか大神官の血筋には女児が産まれない。また、必要以上に女人と接触するのを避けるため、男児が生まれた時点で、大神官はそれ以上、子をもうけることはない。従がって大神官は、生まれたときから大神官になる唯一の存在であり、子どもの時から皆から敬われ、奉られ、そして一線を置かれる。

ゆえに、大神官は人から睨まれるといった経験はない。誰も、大神官を睨み付けるなどという不敬はことはしない。


「どーぞ。」

鈴英は、自分の目の前に置いてある座席へと大神官をうながした。だが、その物言いに待ったがかかる。


「何という言い方をなさるのですか!!まずは御立ちになって。ご足労頂いたことにお礼を申しあげなければなりません!!」


後ろに控えていた女官に叱られて、鈴英はしぶしぶ立ち上がった。本来ならここで女官の叱責が入ることなどありえないのだが、鈴英の態度はあまりに酷かった。

「よーこそおいでくださいました。このようなところまで足をお運びいただきありがとうございます。どーぞお座りください。」


不服そうで不遜。そして不機嫌。最悪な態度である。後ろに控える女官がまた何か言いたそうだったが、大神官は手でそれを制した。


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