孤独な神官はど田舎娘に愛を乞う
「失礼する。」


大神官は、鈴英と対面する位置に席についた。大神官が座ったのを確認して鈴英も座る。そして、座ったとたんに鈴英は身を乗り出して大神官に詰め寄った。


「何で、私を選んだのですか?」

「神のお導きだ。」

「理由はないのね?ただ何となく選んだんでしょ?私が目立っていたから。」

「・・・」

確かに、鈴英はあの場で目立っていた。一人粗末な衣装。居心地の悪そうな態度。目立っていないと言ったら嘘になる。

「なら、家に帰してほしいの。」

「ならぬ。」

「どうして?大神官様の子を産むのなんて他の子でもできるじゃない!!神様が私を選ぶはずがないの話!!そんな酷いことするはずがない!!」

「酷いこと?私の子を産むことがそんなに嫌か?」

「それ以前の問題よ。」

「それ以前の問題とは?」

「うちは、今、私しか畑仕事をできる人間がいないの。父は橋をつくる手伝いに行ってるし、母は弟が生まれたばかりだし。私が畑仕事をしないと、食べるものが無くなってしまう!!」

それは死活問題だった。


「買えばよいではないか。」

大神官のお供も、静玉も大神官の言うこともっともだと思った。作れないのなら買えばいい。


「買うなんて無理なの!そんなお金はないの!作った野菜は自分たちが食べる分と売る分にわけて、売る分が売れてようやくお金になるの!作らないと売れないし、売らないと買えないの。」

鈴英の言い分は、他の3人にはいまいちピンと来ない。野菜は今の時期以外にも育つものは沢山ある。

今、種を巻き損ねても、子が育つなり、父が帰ってくるなりしてからでもよいのではないかと思ってしまう。
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