Aliceーアリスー




「あり、す?」


私の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
聞き覚えないその声はとても不安そうで。


一体誰が私なんかの名前を呼んだのだろう。


激痛でもう意識を手放そうとしていた私だったが、私を呼んだ誰かのせいで意識がまた覚醒した。


「アリス!」


今度は切羽詰まった様子で私を呼ぶ誰か。そしてその誰かが私の側までやって来た。


「し、しろ、うさ、ぎ」


それは12歳の春、私が愛して愛してやまなかった子ウサギだった。
あの頃よりも随分大きくなっているし、ウサギなのに服を着ているし、何故か喋るし、ヘンテコで何もかも違うがはっきりとあの時の子ウサギだとわかる。


あぁ、神様が最期に会わせてくれたんだ。


きっと幻覚だろう。この白ウサギは本物ではない。神様が慈悲の心で最期に見させてくれた幻。
それでも私は嬉しかった。
白ウサギは私の唯一の心の拠り所だったから。
私の幸せな世界そのものだったから。

体はもう動かない。言葉だってもう上手く紡げない。「大好きだよ」と伝えてあの頃のようにたくさんたくさん抱きしめて撫でたい。だけどそれはもう叶わない。

何もできない私だったが瞳からは大粒の涙が溢れて、頬を伝って落ちた。
私はぼろぼろと泣いていた。


「大丈夫だよ、アリス」


白ウサギがそんな私を安心させようと優しい声で私にそう告げる。
そして真っ白な光が白ウサギを包んだ。






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