Aliceーアリスー
「じゃあ、帽子屋、〝元の世界〟への帰り方は知ってる?」
今度はニンマリ顔でチェシャ猫が帽子屋に質問する。
「そちらも残念ながら……。そもそも私たちには元の世界も何もそのような概念などないからね。逆に私が知りたいくらい実に興味を引く話だよ」
帽子屋がフッと笑ってそれに答えるとチェシャ猫は「帽子屋でも知らないのかー」とやはり変わらずニンマリ顔を浮かべていた。
私もチェシャ猫と同じように「知らないのか」と心の中で思いながら本日何杯目か忘れてしまったミルクティに口を付ける。
口に含んだ瞬間に広がる程よい甘さが何とも言えない美味しさであり、癖になる、私好みの味だ。
「あ」
ミルクティを楽しむ私の耳に少し間の抜けた帽子屋の声が入る。
「明日のクロッケー大会に行ってみるのはどうだろう?あれはハートの女王主催だから白ウサギが招待されていれば必ず参加するはずだ」
「クロッケー大会だぁ!?」
帽子屋の言葉に私が反応するより早く反応したのは何故か今の今までお菓子に夢中で全然話に入ってこようとしなかった三月ウサギ。
「あんなクソ大会が明日あるって言うのかよ!?」
「しかも我々も毎度のことながら招待されている」
「かぁーっ!最悪だっ!一気に菓子の味が不味くなった!」
頭を抱える三月ウサギに招待状のようなものを帽子屋が残念そうに見せると更に気分が悪くなった様子で三月ウサギはドンッと机を思いっきり叩く。