Aliceーアリスー




帽子屋はあの時、冷静だった。

私がチェシャ猫を煽って、帽子屋をその気にさせたんだ。


悪いのは主人公になれなかった〝私〟。


「アリスは女王のお気に入りだ。だからアリスだけは特別に許された。俺は今や女王のペットだ」


三月ウサギは諦めたようにそう言って笑うと昨日まで首にはなかった大きな首輪を人差し指で引っ張って私に見せる。

そこには英語で〝mypet〟、つまり私のペットと書かれてあった。

あんなイカれたクロッケー大会をするだけあってとんでもなく悪趣味だ。


「俺が女王のペットとして最期に任されたのはアリスを裁判所に連れて来ること。……もちろん来てくれるよな、アリス」

「……うん」


悔しそうだが、諦めてしまった様子の三月ウサギに力なく私は返事をする。


私は不思議の国の〝アリス〟にはなれない。

私はただの〝アリス〟。


ねぇ、だけどそれで本当にいいの?

物語の主人公はいつだって前向きで諦めたりなんてしない。

だから奇跡が起きるんじゃないの?





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