こえをきかせて
ガチャ
「ただいまー…」
ただいまと言って、お帰りと返ってくることは本当に幸せなことだと思う。
そこにはきっと、家族がいるのだから。
私は誰かから返事が返ってくることを期待して、
いつも家に帰ってドアを開けるときはただいまを欠かさない。
けれど大抵私の帰る家には誰もいなくて、
もしいるとしてもその人達は私に返してくれない。
これがどんなに悲しいことか。
でも私にとっては当たり前になってしまっている。
この古ぼけた賃貸の角部屋が暗く見えるのは、
けして年季の入った汚れのせいだけではない。