イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「柴田。こっち」

「あ、うん」

スタスタと進む安藤の後を追い駆ける。安藤はミーティングルームの前で足を止め、ドアを開けた。

「どうぞ」

「ありがとう」

ドアが閉まらないように押さえてくれる安藤の前を通ってミーティングルームに入る。そして明かりをパチンとつけた。定時を過ぎたミーティングルームには、あたり前だけど誰もいない。

「柴田? 同期会の相談って?」

久しぶりに安藤とふたりきりになり、胸がトクンと跳ね上がる。でも安藤は私のことを『穂香』ではなく、『柴田』と呼ぶ。

子育て同居していたときと、職場とで、私の呼び方を変える安藤はやはり隙がない。けれど久しぶりに苗字で呼ばれると、安藤と距離ができたようで物悲しい気分になってしまった。

そんな中、安藤の質問に小さな声で答える。

「……嘘だから」

「は?」

「同期会のことで相談があるっていうのは嘘なの。ごめんなさい」

私は嘘をついた上に、ふたりの会話を邪魔した。自分勝手な言動が後ろめたくて、安藤に向かって頭を下げるとそのままうつむいた。

「いや、同期会のことは別にいいけど……。でもどうして嘘なんかついたんだよ」

安藤に『どうして』と聞かれた私の頭に浮かんだのは、誰もいない通路で親しげに会話を交わしているふたりの姿。安藤の腕には木村さんの手が触れている。

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