イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
ごめん、朝陽……。
瞳から涙がこぼれ落ちないように奥歯をギュッと噛みしめ、営業室に戻るために鈴木さんに背中を向けた。その矢先「柴田さん」と彼女に呼び止められる。
「……はい」
せめてもの反抗を示すように振り返らずに返事だけすれば、思いもよらない言葉が耳に届いた。
「これから休みを取るときは、柴田さんの都合も聞くようにするわ。それじゃあ、お先に」
鈴木さんのまさかの言葉に驚き、体を半回転させる。すると二階の更衣室に向かう階段を上がっている彼女の後ろ姿が見えた。
右も左もわからない新人の私に業務を一から教えてくれたのは鈴木さんだ。強引なところは多少あるものの、悪い人じゃない。
「お疲れさまでした」
朝陽との初めての旅行に浮かれすぎていた自分を反省すると同時に、鈴木さんとの関係も、よりいいものにしたいと思った。
鈴木さんと別れて残っていた仕事を終わらせると、八月の第三週に夏季休暇を取ることができなかったことをスマホに打ち込み、朝陽に送信した。
朝陽はこのメッセージを読んだらガッカリするだろうなと思うと、胸がチクリと痛み出す。
嫌なことはビールを飲んで忘れよう。
そう決めると横浜駅のデパ地下でローストビーフなどのお惣菜を大量に買い込み、朝陽のマンションに向かった。