イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「は? 冗談だろ?」
朝陽の瞳が、大きく見開かれる。
「冗談じゃないよ」
「俺、死にたくないんだけど……」
「……」
朝陽は私がペーパードライバーだということを知っている。だからといって『死にたくない』とは、いくらなんでもひどすぎる。
人の厚意を台なしにする朝陽の言葉にイラつき、唇を尖らせたまま無言の反論をした。すると朝陽の左手が私に向かって伸びてくる。そして膝の上にのせていた私の手の上に、彼の手がそっと重なった。
「ごめん。言いすぎた」
私をからかっておもしろがるのが朝陽の悪い癖。いつもならムクれる私の顔を見て笑うのに、今日はすぐに謝ってきた。
珍しい現象に驚き、私から手を離した朝陽の横顔を見つめれば、眉がハの字に下がっていることに気がつく。
今日はふたりにとって初めての旅行。つまらないことでケンカなどしたくないと、朝陽もそう思っているようだ。
「今日の朝陽は素直だね」
「俺が素直なのはいつものことだろ」
私が小さな笑い声をあげると、朝陽の横顔にも笑みが浮かぶ。
ふたりだけの一泊旅行は始まったばかり。期待に胸を膨らませながら、箱根までのドライブを楽しむことにした。