イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
大胆に迫る夜
一日目の箱根観光を終えて、芦ノ湖が見渡せる老舗旅館に向かう。
木造平屋造りの旅館へと続く石畳を進む私の耳に聞こえるのは、自分たちの足音とセミの泣き声だけ。観光客であふれ返っていた芦ノ湖からさほど離れていないのに、旅館周辺は静寂に包まれている。
上品で落ち着きのある心地よい空間で、これから朝陽とひと晩過ごせることがうれしくて、繋いでいる手にキュッと力を込めた。
「穂香の肌、いつもよりツルツルしてる」
「そう? 温泉の効能かな?」
朝陽の大きな手が、私の肩の上を軽やかにすべっていく。
チェックインを済ませた私たちが案内されたのは、竹林の中にひっそりと建つ離れの個室。旅館の女将が淹れてくれたお茶を飲み、純和風作りの部屋でくつろぎ、そして今は個室専用の露天風呂に朝陽と一緒に入っている。
「あ、朝陽……」
「なに?」
戸惑いながら彼の名前を呼んだのは、背後から私を抱きしめる朝陽の手が下へ下へと移動していくのが見えたから。
ふたりしかいない露天風呂で肌を密着させていれば、淫らな気分になるのは私も同じ。しかし太陽も沈んでいないまぶしい空の下で、乱れる姿を朝陽に見られるのはやはり恥ずかしい。
「……ダメ」
けれど短い言葉で抵抗してみても、朝陽の動きは止まらない。
波立つ湯の中で朝陽の指に翻弄され続けているうちに、口から「……ぁ」と吐息交じりの声が漏れてしまった。そんな私の耳もとで、朝陽がクスッと笑う。
「ダメって言うわりには、感じているみたいだけど?」
普段とは違うシチュエーションで大好きな朝陽に攻められて、感じない方がおかしいでしょ?
「……朝陽の意地悪」
精いっぱいの強がりを言いながら上半身を半回転させると、私の反応をおもしろがる朝陽の憎らしいその口を、熱く塞いでやった。