イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

でも朝陽が異動することなど、少しも考えていなかった私にとって、今回の人事異動はまさに青天の霹靂(へきれき)。動揺せずにはいられない。

「嫌だよ……。大阪なんて遠くて嫌だよ」

横浜から大阪まで新幹線でどれくらいの時間がかかるのか知らないけれど、平日の仕事終わりに朝陽に会いに行くのは不可能だと思うし、土日だって毎週のように大阪に行くのは金銭的にきついだろう。

朝陽と遠く離れてしまうことに不安を感じ、つい弱音を吐き出してしまった。そんな私の耳に届いたのは、思いやりにあふれた朝陽の言葉だった。

『……穂香。寂しい思いさせて、ごめんな』

「ううん。私の方こそ、ごめんなさい」

私が口にした『嫌だよ』という言葉は、ただのわがまま……。

すぐにそう気づいた私は、朝陽に慌てて謝った。

大阪支店に異動する朝陽の不安に寄り添う前に、自分の気持ちを最優先させてしまった大人げない自分が嫌になる。

「朝陽、まだ仕事の途中でしょ? 早く終わらせてゆっくり休んで」

自ら通話を終わらせる言葉を口にしたのは、今は朝陽と冷静に話を続ける自信がないから。突然の転勤話をすぐに受け入れられるほど、私は聡明ではない。

『……そうする。穂香、ありがとう。また連絡する。じゃあな』

「うん。じゃあね」

プツリと通話が切れた瞬間、涙が込み上げてくる。

初めての転勤で一番大変な思いをしているのは朝陽。頭ではそう理解していても、物悲しい気持ちを拭い去ることができない。

これから私たち、どうなるの?

朝陽と頻繁に会えなくなる不安に駆れた私の口から、大きなため息がこぼれ落ちた。

< 141 / 210 >

この作品をシェア

pagetop