イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
朝陽の異動を知った翌日。
「安藤さん、大阪支店に異動だって」
「ショックだよね」
横浜支店の女子更衣室は朝陽の異動話でもちきりだ。
私と朝陽の関係を秘密にしているのは、女子行員に人気がある朝陽とつき合っていることが知られたら、陰でなにを言われるかわからないから。彼女たちと険悪なムードになって仕事がやりにくくなるのは絶対に嫌だ。
朝陽の異動話に夢中な女子行員たちを横目に早々と着替えを済ませると、更衣室から出た。
一日の業務を終わらせて営業室を出る。すると通路の先に朝陽と庶務係の木村さんの姿があった。
朝陽の手には黒い営業バッグが握られている。きっと営業先から戻ってきたところを木村さんに捕まったのだろう。
あれ? この光景、以前にも見たような気が……。
嫌な予感に胸騒ぎを覚えたその瞬間、木村さんの声が通路に響いた。
「安藤くん、好きなの」
木村さんが朝陽に好意を寄せていることは、前からわかっていた。でも木村さんの口から『好き』というストレートな言葉を聞いたのは今日が初めて。
朝陽の彼女は私だけど、真剣な思いを伝える木村さんを邪魔する権利はない。
音を立てないようにそっと足を後退させると、ふたりの姿が見えない通路の角に姿を隠した。けれど朝陽と木村さんの会話は聞こえてしまう。