イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
送別会を楽しむことができないのは、この期に及んでも朝陽の異動を受け入れることができていないから。私は今でも、朝陽が大阪に行ってしまうのが嘘だったらいいのにと思っている。けれど個人的な理由で、幹事である中山くんに心配かけるのはよくない。
「そんなことないよ」
「それならいいんだけど。いつもより元気ないような気がしたからさ」
「心配かけて、ごめんね」
口角を上げて無理して微笑めば、中山くんも笑顔を見せてくれた。しかし彼のその笑みもすぐさま消える。
「柴田が元気ないのって、安藤が関係してる?」
「えっ?」
「安藤が異動になって寂しいんじゃないかと思ってさ」
眼鏡のブリッジを中指で押し上げた中山くんがポツリとつぶやいた。
今日の送別会は朝陽が異動になることを寂しがる集まりじゃない。大阪支店に異動する朝陽を激励するための集まりだ。
頭ではそう理解していても朝陽と遠く離れてしまうのは、やはり寂しくて仕方ない。
「安藤とはずっと同じ支店だったから、やっぱり寂しいよね」
今まで誰にも打ち明けたことのない思いを、中山くんの前で初めて認めた。
後任担当者との業務の引継ぎや取引先への挨拶回りなど、目が回るような忙しさに見舞われている朝陽を困らせないため、私は『寂しい』という言葉を口にするのをずっと我慢していた。