イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

けれど中山くんの前でその言葉を口にしてしまったら、どうしようもない不安に駆られてしまい、視界がゆらゆらと揺れ出した。

「柴田、大丈夫?」

私を心配してくれる中山くんの声を聞いても、込み上げてくる涙は止まらない。

これ以上、中山くんに迷惑かけることはできない……。

「なんでもないの……ごめんね……。ちょっと、お手洗いに行ってくる」

瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる中、中山くんに謝る。そして涙を隠すためにその場から立ち上がり、トイレに行こうとした。けれど予想外の出来事が起こり、その足も止まる。

「中山! オマエ穂香になにしたんだよっ!」

背後から聞こえてきた声に驚き振り返れば、大股でこちらに向かってくる朝陽の様子が目に飛び込んできた。

涙が邪魔をして朝陽の表情はよく見えない。でも大きく震える朝陽の声を聞いただけで、とても怒っているとわかる。

きっと朝陽は私が泣いたのは、中山くんのせいだと思っている……。

「朝陽っ! 違うの。中山くんは悪くないの。私が勝手に泣いただけだから」

今にも中山くんに殴りかかりそうな勢いを見せる朝陽の前に、慌てて飛び出した。

居酒屋の座敷部屋が一瞬のうちに静まり返る。しかしそれも束の間、同期の驚く声があちらこちらであがり、辺りが再び騒がしくなる。

「今、安藤くん、穂香って名前で呼んだよね?」

「えっ? どういうこと?」

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