イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「朝陽。また来るね」
名残惜しい気持ちを堪えつつ、足を一歩踏み出す。けれど朝陽は私の手首を掴み、乗車列から離れて後方に歩き始めてしまった。
「えっ?」
突然移動した朝陽の足が止まったのは、乗車列の最後尾。
「朝陽? どうしたの?」
思いがけない展開に驚き、うつむいている朝陽の顔を覗き込む。すると瞳を伏せたまま、朝陽がポツリとつぶやいた。
「……帰したくない」
まだ足りない。ずっと一緒にいたい。そう思っていたのは私だけじゃない。
その事実がうれしくて、最後の最後になって本音を漏らした朝陽を愛しく思った。
「私も帰りたくない」
私も本音を口にすると、再び視界が揺らめき始める。そんな中、朝陽の顔が私に向かって近づいてくるのが見えた。
ここは新大阪駅のホーム。新幹線から降りてくる人もいれば、乗り込む人もいる。でも今の私たちには、大勢の人の視線など気にもならない。
朝陽と同じ思いを抱いた私が瞼を閉じると、ふたつの唇が隙間なく重なる。しかし人目をはばからずにキスを交わしても、寂しい気持ちを拭い去ることはできなかった。