イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

普段は冷静な朝陽が慌てるのは珍しい。

「朝陽? この人、誰?」

「……同じ支店の……山口さん」

自分でも驚いてしまうような低い声で朝陽に尋ねれば、なんとも歯切れの悪い答えが返ってきた。

彼女の名前はわかった。次に私が知りたいのは、このことだ。

「彼女、朝陽とキスしたって言ってた。ねえ、本当なの?」

遠回りせずに本題をズバリと切り出したのは、一刻も早く白黒ハッキリさせたかったから。しかしその一方で、朝陽とキスしたという彼女の言葉が嘘でありますようにと願っている自分もいる。

相反する思いが入り混じり、体が小さく震えた。そのとき朝陽の口から聞きたくなかった言葉が飛び出した。

「穂香、ごめん。山口さんの言ったことは嘘じゃないんだ」

彼女とのキスを認める朝陽の言葉を聞き、胸がズキリと痛む。

うつむく朝陽を前にして思い出すのは、二股をかけられていた苦い過去。

「朝陽。どうして彼女とキスしたのか、きちんと説明して」

朝陽は二股をかけるような卑怯な男じゃない……。

そう信じながら、彼女とキスした理由を朝陽に向かって尋ねた。

「俺、熱が出て火曜日から木曜日まで会社休んだんだ」

朝陽は私の視線から逃れるように、ドアホンのモニター前からソファに移動する。

彼女から朝陽が熱を出したことは聞いた。でも会社を休んだときに同じ支店の彼女とキスをするなんて、おかしくない?

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