イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

急に仕事を休んで、周りに迷惑はかけられない……。

「な? 無理だろ?」

拗ねたように唇を尖らせた朝陽が、ソファに深くもたれかかった。

そもそも熱が出たことを私に内緒にしていたのは朝陽の方。それなのに今になって責められるのは納得いかない。

「私が大阪に来るのが当然みたいな言い方しないでよ」

朝陽が大阪に異動してから横浜に帰ってきたことは一度もないし、往復の新幹線代を出しているのはこの私。

朝陽が私に不満があるように、私だって朝陽に不満がある。

込み上げてくる苛立ちを実感する中、朝陽に視線を向ける。すると彼の厚みのある唇が上下にゆっくりと開いた。

「慣れない土地で仕事して、家に帰ってもひとりで……。今、俺……精神的に余裕ない」

ソファに腰かけたままの朝陽がポツリとつぶやく。

朝陽が大変な思いをしているのはよくわかる。けれど単身で転勤してがんばっている人は世の中に大勢いる。

「それって、私に会いに横浜まで来られないって意味?」

「そうは言ってないだろ」

「私にはそう聞こえた」

私と朝陽の言い争う声が、リビングに響き渡る。

久しぶりに会ったのに、ケンカになってしまったことが悲しくて苦しい。

ジワリと涙が込み上げてきて視界が揺らめき始めたとき、朝陽の冷静な声が耳に届いた。

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