イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「穂香。ちょっと頭冷やそう」
「……うん」
朝陽の言葉にうなずき、目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。
このままでは、お互いを責め合うばかりでいいことはない……。
気分を落ち着かせるために静かに深呼吸を繰り返していると、ソファに座っていた朝陽が立ち上がってキッチンに向かった。
私の耳に聞こえてきたのは冷蔵庫を開閉する音。そしてすぐに缶のプルタブを開けるプシュッという音も聞こえてきた。
まさか、こんなときに?
嫌な予感を覚えた私がキッチンに視線を向ければ、缶ビールを飲んでいる朝陽の姿がカウンター越しに見えた。
まだ話は終わっていない。それなのにアルコールを飲むなんて信じられない。
それに今日はクリスマスイブ。本当だったらイルミネーションを楽しんだ後で、シャンパンで乾杯したかったのに……。
足を数歩進めれば朝陽に触れられるのに、今はふたりの距離がとてつもなく遠く感じる。
遠距離恋愛中でもふたりの心はきちんと繋がっていると思っていたのは、もしかしたら私だけだったのかもしれない。
朝陽に対する不信感が急激に増していくのを実感した私は、ふたりで甘いときを過ごしたこの部屋にいることがつらくなり、コートとバッグ、そして朝陽に渡すはずだったクリスマスプレゼントが入った紙袋を手に取ると玄関に向かった。