イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

すでに太陽が沈んだ真っ暗な空のもと、マンションのエントランスを出る。頬をなでて行く風は痛いほど冷たく、手袋を着けていない指先は凍えるように寒い。

でも朝陽と言い合ってヒートアップした今の私には、これくらいの気温が丁度いい。

取りあえず頭を冷やそうと考えながら大通りに面した歩道をトボトボと歩いていると、背後から私の名を呼ぶ声が聞こえた。足を止めて振り返ってみれば、こちらに向かって走ってくる朝陽の姿が見える。

朝陽になにも告げずに突然マンションを飛び出した私を心配して、追い駆けてきてくれたことはうれしい。でも頭が混乱している今はまだ、朝陽と冷静に話せそうにない。

どうしよう……。

この先どうしたらいいのかわからずに戸惑っていると、目の前の交差点で一台のタクシーが停まった。乗客が降りたタクシーに駆け寄り、まだ開いている後部座席のドアから運転手さんに声をかける。

「あの、新大阪駅までお願いできますか?」

「ええで」

大阪に慣れていない私がパッと思いついた行き先を運転手さんに告げれば、フランクな関西弁が返ってきた。

「ありがとうございます」

小さく頭を下げつつお礼を告げると、私を追い駆けてくる朝陽をから逃れるように急いで後部座席に乗り込んだ。バタンとドアが閉まり、タクシーが発車する。

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