イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
車内は暖房が効いていて、外とはまるで別世界のよう。寒さで強張っていた体がほぐれていくのを実感しながら振り返ると、私を追い駆けてくる朝陽の姿が徐々に小さくなっていくのが見えた。
再び朝陽を責めてしまうことを恐れた私は、彼から咄嗟に逃げた。でもその判断が正しかったと胸を張ることができない。
私を追い駆けてくる朝陽の姿が頭から離れず、口から「はぁ」と小さなため息が出た。その矢先……。
「これから彼氏に会いに行くんか?」
「えっ?」
「ほら、今日はクリスマスイブやから」
私に声をかけて柔らかく微笑む運転手さんの瞳が、タクシーのバックミラーに映り込む。
愛想よく話しかけてくる運転手さんは、きっと気さくでいい人なのだろう。けれど私は朝陽とケンカしたばかり。運転手さんの質問に笑って答えられる余裕はない。
「……まあ、そんなところです」
適当に返事を濁したものの、運転手さんの話は終わらない。
「ええな。おっちゃんは今日も明日も仕事やで」
「そうですか。お仕事、がんばってください」
「おおきに」
話がようやくひと段落つき、ホッと胸をなで下ろす。するとバッグの中でスマホが音を立てた。
バッグから出したスマホに表示されていたのは、朝陽の名前。けれどまだ、朝陽と話をするのが怖い。
いつまで経っても切れない朝陽からの着信音を聞きながら、自己嫌悪に陥った。