イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

朝陽が小さな声でポツリとつぶやく。

新大阪駅で元カレである根本さんに会ったのは偶然だし、コーヒーショップに入ったのは泣いた私が落ち着くため。

「違うの。根本さんとはなんでもなくて……」

婚約者がいる根本さんとやましいことはなにもなかったと説明しようとしたとき、朝陽に言葉を遮られた。

「もういい。聞きたくない」

「朝陽……」

根本さんと会っていた言い訳すら聞いてくれないことが悲しい……。

私を拒否する朝陽の顔を真っ直ぐ見ることができなくて、唇を噛みしめてうつむく。そんな私の耳聞こえてきたのは、朝陽の弱々しい声だった。

「穂香、帰ろ」

大阪に住まいがない私を気遣って、朝陽はマンションに帰ろうと言ってくれた。けれど、それは愛情ではなく同情だ。

「朝陽。私、横浜に帰る。もう新幹線の乗車券も買ったの」

うつむいていた顔を上げると、朝陽に笑顔を見せる。

新幹線の乗車券を買ったと嘘をついたのは、朝陽の負担になりたくなかったから。

「……そうか。それじゃあ、気をつけて」

「うん」

これ以上朝陽を苦しめたくない一心で嘘をついたものの、横浜に帰ると言う私を引き留めてくれないことにショックを受けている自分が腹立たしい……。

朝陽に渡すつもりだったクリスマスプレゼントが入った紙袋の取手をギュッと握りしめると、瞳から涙がこぼれ落ちないように我慢した。

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