イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
中山くんが指定してきたのは、横浜の山下公園にほど近いダイニングバー。お店に入ると店員さんに声をかけられる。
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
「いえ。待ち合わせなんですけど……」
照明が抑えられた落ち着いた雰囲気の店内を見回せば、中山くんが「柴田」と私を呼ぶ声が聞こえた。窓際のハイカウンター席に座り、小さく手を掲げる中山くんのもとに向かう。
「待たせてごめんね」
「いや、約束の時間までまだ五分ある」
紺色のテーラードジャケットの袖をほんの少しまくり上げた中山くんが、私に腕時計を見せる。
今の時刻は午後五時五十五分。中山くんが言うように、六時の待ち合わせ時間まであと五分ある。
きっと中山くんは待ち合わせの時間前に来たのだから、謝る必要はないと言いたいのだろう。
「うん」
生真面目な対応をする中山くんをおもしろく思いつつ、彼の隣の席に腰を下ろした。
「なに飲む?」
中山くんが差し出してきたアルコールメニューを見ながらコートを脱ぐ。
アルコールが強いお酒を飲んでほろ酔いになってしまっては、朝陽のことについて話ができなくなってしまうかもしれない。
「レッドアイにする」
アルコール度数が低いトマトジュースベースのカクテルを選んだ。