イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

テーブルの上に置かれたままのジントニックを中山くんがひと口味わうのが視界に入る。少しの沈黙が流れた後、中山くんが再び口を開いた。

「アイツ、仕事がんばって営業成績がトップになったら、柴田を迎えに行くって言ってたよ。だからそれまで、柴田のことよろしくって頼まれた」

「……っ!」

初めて聞く話に驚き、ハッと息を飲む。

大阪支店に異動する前の同期会でも、朝陽がみんなに『穂香のことをよろしく頼みます』と言って、頭を下げてくれたことを思い出す。

私を思ってくれる朝陽の心は異動前も後も、なにも変わっていなかった……。

朝陽の気持ちが私から離れてしまったのではないか。そう疑ってしまったことが後ろめたくて、心の中で朝陽に「ごめんね」と何度も謝った。

けれどクリスマスイブの翌日に朝陽とスマホで交わした『ひとりでがんばる』という言葉の本当の意味を、中山くんが知っていて私が知らないのは納得いかない。

「朝陽ったら、私にもきちんと説明してくれればいいのに……」

中山くんに続くようにレッドアイに口をつけると、朝陽に対して愚痴をこぼす。

「彼女にカッコ悪い姿は見せたくないっていう男のプライドってやつだよ。意地らしくてかわいいじゃん」

「そうだね」

私と中山くんの陰口のようなこの会話を、朝陽が聞いたら絶対に怒る。

そう思いながら中山くんとふたりでクスクスと笑い合った。

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