イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「木村さん、お疲れさまでした」
「あ、うん……。お疲れさま」
木村さんとの会話をバッサリと切った安藤が挨拶すると、彼女は名残惜しそうに書庫から出て行った。
「なあ、それ。全部ファイリングすんの?」
作業をしている私に近づいてきた安藤に尋ねられる。
「うん。そうだけど」
「相変わらずトロいな。手伝ってやろうか?」
チクリと嫌味を口にした安藤にイラつきながらも、ファイリング作業を手伝うと言い出した彼を怪訝に思った。
「仕事、終わってないんでしょ?」
「仕事ならとっくに終わってるけど」
安藤が澄ました表情でサラリと言う。
彼が配属されているのは営業課の法人係。
四月二十八日の土曜日から五月六日の日曜日まで大型連休となる企業が多いため、ゴールデンウイークの中日(なかび)にあたる今日は、取引先を訪問しなくていいのだろう。それに安藤はもともと手際がいい。すでに仕事が終わっていても、ちっとも不思議じゃない。
それなのに木村さんに仕事が終わってないと言ったのは、彼女の誘いを断るため?
嘘をついても飄々としている安藤をやや軽蔑しつつ「……あ、そ」と返事をすると、棚の一番上にあるファイルに手を伸ばした。でもファイルに指先が触れるだけで、手もとに取り寄せることができない。
あと少し……。