イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
思うように動いてくれないキャリーケースがもどかしい。それでも懸命に足を進めていると、蓮くんに追いついた安藤の姿が見えた。
蓮くんが迷子にならずによかった……。
ホッと胸をなで下ろすと、安藤が蓮くんの腕を掴んで屈み込んだ。
「蓮! 突然手を離して走り出したらだめだろう。迷子になったらどうするんだ」
声のボリュームこそ抑えているものの、蓮くんを注意する安藤の口調はきつい。蓮くんが泣き出したりしないかとハラハラしてしまった。けれど私の心配とは裏腹に、蓮くんが不満げに唇を尖らせる。
「だって……」
「だってじゃないだろ? どうして急に走りだしたりしたんだ?」
安藤が理由を尋ねると、蓮くんが斜め上を指さした。
「これ、ほしかったから」
そこにあったのは山積みされた変身ベルト。この場所がおもちゃ売り場だとようやく気づいた。
どうやら蓮くんは、ライダーが活躍する子供向け番組をよく見ているようだ。
私には今のライダーがどのような変身を遂げるのかわからない。けれど弟が幼い頃、ライダーにハマって親に変身ベルトをねだっていたのはよく覚えている。
繋いでいた手を振り解いて駆け出すほど変身ベルトがほしいのなら、蓮くんに買ってあげたいと思った。でも安藤の考えは違うらしい。
「さっき穂香に絵本買ってもらっただろ? ベルトはまた今度な」