イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「蓮。明日動物園に行くんだろ。早く寝ないと朝起きられないぞ」

安藤が諭すように言っても、蓮くんは納得してくれなかった。

「やだっ! やだっ! やだっ!」

「蓮!」

少し荒い安藤の声がリビングに響く。それを聞いた蓮くんの小さな肩がピクリと跳ね上がると同時に、大きな瞳に涙が滲み出した。

お泊りの初日に泣き寝させるのは、安藤も不本意なはずだ。慌ててふたりの間に入り、蓮くんの頭を優しくなでた。

「そうだ、蓮くん。絵本を読むって約束していたよね? 一緒にお布団に入って読もうか」

「……うん」

コクリとうなずいた蓮くんが、私にギュッと抱きついてきた。

懐いているはずの安藤よりも今日会ったばかりの私に甘えるのは、やはりママが恋しいのかもしれない。

手を回して蓮くんの小さな背中をゆっくりさする。すると安藤が「悪い」と小声でつぶやいた。

「ううん」

安藤はソファに腰を下ろし、苛立ちを抑えるように前髪をクシャリと掻き上げる。

安藤だって完璧ではない。子育ての経験はないのは独身だからあたり前だし、感情的になることがあって当然だ。

「蓮くん、ベッドに行こうか」

「うん」

蓮くんと手を繋ぎ、リビングの片隅に置いていた絵本を手に取る。

「蓮。おやすみ」

「……おやすみなさい」

お互い気まずく思っていても、挨拶はきちんと交わす。安藤は親代わりの役割をちゃんと果たしているし、蓮くんもいい子だ。きっと明日の朝は笑顔で「おはよう」と挨拶できるはず。

少し困ったような表情を浮かべる安藤に微笑み、リビングを後にした。

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