イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「お、お願いします」
安藤は私の返事に満足したらしい。
壁についていた手を離すと一歩下がり、体の前で両腕を組んだ。
「初めから素直にお願いしますって言えばいいのに」
「……スンマセン」
素直に謝ったのは、これ以上安藤に振り回されたくなかったから。
安藤は上司や同僚には愛想よく振る舞う。それなのに私にだけは悪態をつき、からかっておもしろがる。
だから私は、裏表がある同期の安藤が苦手なのだ。
本当なら安藤に借りなどつくりたくない。けれどひとりでファイリングしていたら、いつまで経っても作業は終わらない。
「これ、お願いします」
安藤に頼るのは、今日だけなんだから……。
そう自分に言い聞かせながら書類の半分を安藤に突きつけると、早々と作業に取りかかった。
新卒採用者は入社して半年間、銀行業務の基礎を覚えるため預金後方事務を担当する。だから今は営業課の安藤も、預金課のファイリング作業は過去に経験済みだ。
しかし、そうはいっても久しぶりのファイリング。戸惑うこともあるだろう。
そう思って安藤に注意を向けた。けれど私の思いとは裏腹に、安藤は手際よく作業を進める。
営業課の安藤に負けるわけにはいかない。
変な闘争心に火がつき、黙々と作業にあたった。