イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

たしかに今の私は仕事中の私とは少し違う。でも『ちょっと戸惑う』ってどういう意味なのかがわからない。

再び缶ビールに口をつけると、安藤の言葉の意味を考える。すると風もないのに髪の毛がふわりと揺れた。

「あ、安藤、酔ってるの?」

思わず大きな声を出してしまったのは、隣に座っている安藤が私の髪の毛に触れたから。

「ビール一本で酔うわけないだろ」

安藤はそう言うと、すくい上げた私の髪の毛の先に唇を寄せた。

「……っ!」

突然髪の毛に触れられただけでも驚いたというのに、さらにキスまでされたら平常心でいられるはずがない。

安藤から離れるために体を横にずらした。しかし彼は私との距離をすぐさま縮める。

安藤は酔ってないって言っているけれど、これって完全に酔ってるよね? 安藤って酔うと触り魔になるの?

豹変した安藤を前にあたふたすれば、彼の口もとが怪しく緩むのが見えた。

「穂香って、耳弱いだろ」

「えっ?」

「本屋で内緒話したとき、顔が真っ赤になってた」

安藤は手に取ったままの私の髪の毛を持ち上げる。そして、あらわになった耳に「ふう」と息を吹きかけた。

「……っん」

無意識に声が漏れてしまったのは、安藤に指摘された通り耳が弱いから。

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