イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
Stage.2

同期のアイツと食事


制服である紺色のジャケットとタイトスカート、そして淡いグリーン色のブラウスを脱ぐと私服に着替える。軽くメイクを整えながら口にするのは、同期のアイツの悪口だ。

「もう、安藤のバカ!」

更衣室に誰もいないことをいいことに、鏡に向かって口悪く安藤を罵る。それでも気分はちっとも晴れなかった。

「はぁ……」

ついさっきまで安藤の悪口を言っていたのに、今度は大きなため息が口からこぼれる。コロコロと言動が変わる自分がおかしくて、自嘲気味に笑った。するとバッグの中のスマホがブルブルと震え出す。

手にしたスマホに表示されているのは【根本恭平(ねもと きょうへい)】という文字。その懐かしい名前を目にした瞬間、心が揺れて応答ボタンを押す手が思わず震えた。

「もしもし」

『穂香(ほのか)。久しぶり。元気だった?』

スマホ越しの声の主が私のことを『穂香』と名前で呼ぶのは、私が彼の元カノだから。

懐かしい声が耳にくすぐったい。

「はい、おかげさまで。根本さんも元気そうですね」

『まあね』

昔と同じように低く響く根本さんの声に耳を傾けること、数秒。彼の口から本題が切り出された。

『穂香。今から会えないかな?』

「えっ?」

『実は今、東京にいるんだ』

以前、根本さんは私と同じ横浜支店に勤務していた。しかし異動辞令が出て、今は大阪支店に在籍している。その彼がどうして東京に?と疑問に思ったものの、今日はこの後、安藤にお寿司をごちそうしなければならない。

「すみません。先約があって……」

『そうか。残念だな』

「ごめんなさい」

根本さんと会話を交わして思い出すのは、彼との苦い過去だった。

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