そんな目で見ないでっ!
「水着、これにするよな?」


司は鏡越しに秋菜を見て、念を押すように言った。

秋菜が返事をしないでいると、司は抱きしめた腕に力を込めた。


「…ずっとこのままでいれたらな…」


司が悲しそうに呟いたのを、秋菜は聞き逃さなかった。

ズキンと心が痛む。

鏡の中の二人に年の差は感じられない。

このまま飛び込んでいきたいと秋菜は思った。

しかしすぐに不安が押し寄せる。

自分が思うよりも、実は簡単で呆気ないものかもしれない。

それでも不安にならずにはいられなかった。


「秋菜?」


秋菜は、司の声で我に返った。

司が鏡越しに見つめているので、全身がさらに熱くなった。


「離れてよ」


「じゃあこれ買う?」


甘えるように見つめられ、秋菜は思わず頷いていた。

それでも抱き着いたままの司に


「だから離れてよ」


と言ったが、司はしばらく秋菜を抱きしめたまま離れなかった。
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