お嬢様は恋をしません。
そんなこと思ってたのに、全然そんなことない。




私なんか、いてもいなくても一緒だった、奏多にとって。




それだけでしょ?




それだけなのに、なんで。




なんでこんなにも、泣きそうになるんだろ。




ほんとに、好きみたいじゃん…。





「莉緒、行くよ」




湊音は私の手を引いた。





「う、うん」





班員のみんなが前を歩いている。



私たちは背中を追いかけて歩いた。




湊音の手はすぐ離れてしまったけど、湊音は少し振り返って私にデコピンした。





「考えすぎ」





湊音はそう言って笑うと、ポケットに手を入れた。





湊音なりの、優しさ。




そうわかって、口角が上がる。






「ありがと」





私はそう言って、湊音のカーディガンの裾を掴んだ。





暦の上では秋に入ったものの、まだ少し暑い。
< 103 / 139 >

この作品をシェア

pagetop