お嬢様は恋をしません。
「…颯太」




莉緒は、颯太くんにゆっくりと近づいて、愛おしそうに、頬に手をあてがった。




「…颯太。ごめんね…ありがと」





そう言った莉緒の声は、少し鼻の詰まったような声だった。




泣いてる。




暴走族に捕まっても泣かなかった莉緒が。




ベッドに横たわる男の子を見て涙を流している。




それが、不謹慎なのに、綺麗に見えて。






「奏多も、見てあげて?




私の…大切な子」




「ん」




俺は多分、まともにうなづけていなかったように思う。




ベットに横たわっているのが、命ある人間だったからか。




それとも。




“大切”




莉緒のその言葉にショックを受けたからか、それは俺にもどうにも分かりそうにない。




だけど。




「シュウさんに、似てるね」




通った鼻に、薄い唇。長い睫毛。




しっかりと兄弟を思わせる顔つきは、しかしどこか幼げだった。
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