お嬢様は恋をしません。
車で移動している20分間。



誰も何も、話すことなく私はずーっと外を眺めていた。




…颯太。





私もう、自分のことわからなくなっちゃったの。




右目から一筋流れたものにも、気づかないふりをした。






「…緊張するんだけれど」




「でも、莉緒がノックしなきゃダメでしょ」





病院に着いて、颯太の病室の前で立ち尽くす。




起きてるってわかってたら、開けられないな…。





少し躊躇ってから、ノックをする。




コンコンコン





「はーい」





少し掠れた声が聞こえた。




扉をスライドする。





「莉緒…久しぶり、なんだよね?」





目覚めてすぐだからか掠れた声が、笑いを含む。





「颯太…ふう、た……」




「うん。僕は、颯太だよ?」





なんの涙かわからない。




颯太が目覚めて嬉しいから?




多分、それだけじゃないんだと思う。





「莉緒。ごめんね、長いこと放っておいたみたいで。




おいで?」
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