お嬢様は恋をしません。
「なんで…そんな顔、してるの…」



「莉緒に怪我させちゃったし…。



今も無理させちゃったし…」




私の手を握る力が強まる。




「俺のせいで、ごめん…」




私は、奏多との間のこの重苦しい空気を壊そうとして、明るく振る舞う。




「大丈夫だって。


あの強烈なアタック、飛んでくるとは思わなかったけど、避けようと思えば避けれたし」




「でも…」




「スポーツに怪我はつきものだよ。落ち込まないの。



ていうか、あんなにすごいアタック打てるのにバレーしないの?」





笑ってそういうと、奏多の雰囲気が変わった。




冷たい風が吹く。




表情が固まって、緊張感のある空気が停滞した。



その数秒後。




「…ふふ、しないよ。バレー部、大変だからね」




さっきの空気が嘘みたいに。




固まった表情なんか見間違えだったみたいに。




奏多はいつも通り笑ってそう言った。
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