お嬢様は恋をしません。
え…、嘘…。




これは…、私、キス、される…?





奏多の唇が触れる、直前。




遠くからスニーカーが走ってくる音が聞こえた。




すると奏多がニヤリと笑った。




私からパッと離れるとカバンを押し付けて、足音の方に体を向けている。




私がそっちを向くと中年のおじさんが黒いパーカーを着て、ナイフを持って走ってきていた。




え…何?



なんなの…?




「やっと動いてくれた」




奏多はそう言うと、ゆっくり男に向かって歩き出した。




「ぼ、僕の莉緒ちゃんに…



ふ、触れるな…っ」




男はそう言って、奏多にナイフを向けて勢いよく走る。




き、キモチワルい…。



何、この人…。





『西条莉緒、お前を殺す』



『莉緒、離れろっ』





あの時の記憶がフラッシュバックする。




地面に広がる赤い血と、赤黒く染まったナイフをこちらに向けた男。
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