竜の姫君
 よしっ!
 あたしはそろそろと後ずさり開始した。
 ちょっとだけ寂しい気もしないではないが、背に腹は変えられない。
 これ以上厄介ごとに付き合っているほどあたしは暇じゃないのだ。
 なのに。
「待ちたまえ」
 呼び止めやがった。
「待てと言われても……」
 つい口答えをしてしまう。
 しかし、人間もどき(しかも美青年)の竜は気にもしなかった。
 気にしろよ。
「我が子はそなたを伴侶に定めたようだ。すでに儀式もほぼ完了している」
「伴侶、儀式? 何のこと?」
 ああ、もうあたしすでにため口。
「人であるそなたには理解できないであろうが、我らは竜は生まれてまもなく生涯を共にする伴侶を定める、名を授けあうことによってだ」
「名を授けあうって、ああっ!」
 あの時、この子に仮の名前をつけたとき妙な風が吹いたっけ、あれのことか。
「心当たりがあるようだな」
「だって、あれは単に名前がないと呼びにくいなと思って。それにあたし、その子に別に名前もらってないし」
「我が子はすでにそなたに名を与えている。ただ、そなたがそれを認識していないだけだ」
「はあ?」
 わけわかんないし。



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