竜の姫君
「そなたにとっては事故みたいなものであろうが、我が子にとってはそういうわけにもいかない。人間を選ぶとは前代未聞だが、何と言っても時空を飛び越えてまで探し出した伴侶だ」
 美青年は首を傾げた。
 青銀の髪が頬にさらりとかかる。
 それをエルが嬉しげにいじって遊んでいる。
 微笑ましい親子の図だなあ。
 天気もいいし。
 森の空気はさわやかだし。
 あたしはすでに現実逃避モード。
 彼の言うことの理解を放棄している。
 すでに外国語を聞いている気分。
 ハンリョ、ジクウ。
 ナンデスカ?
 それってオイシイ?
 ってなもんだ。
「しかし、人間の世界では竜の仔の生育は難しい」
 そりゃそうだ。
 ここにいればまた魔法使いたちに狙われるし。
 いろいろ生活習慣とか違うだろうし。
 とりあえず、はやくお引き取っていってください。
「いったん、わが国に連れ帰ることとしよう」
 うんうん、なんだか知らないがソレがいい。
 あれ? いま『いったん』って、言わなかったか。
「成長の暁には、再びそなたの元に戻ることになろうが」
 戻さなくていいから。
 思いっきりそう言いたかったが、こちらを見た青年の金色のまなざしは鋭くて、怖い。
 言っ、言えない。
 代わりにあたしがおそるおそる聞いたのは
「竜の成長ってどのくらいかかるの?」
 せめて心の準備をする期間がどのくらいあるのかくらいは知りたい。
  



 
< 17 / 25 >

この作品をシェア

pagetop