竜の姫君
「うむ、そうだな。そなたたちの時間で言えば百年くらいだろうか」
「ひゃっ、百年!」
 思いかけない数字に声がひっくり返ってしまう。
 竜って成長に時間かかるってことか。
「何か問題でも?」
「ないですっ!」
 あたしはきっぱりはっきりしっかり断言した。
 心の準備どころか百年もあればあたしはすでに儚くなっているはず。
 まったくもって問題はない。
「いやっ!」
 って、意義を唱えるんじゃないエル。
「いやいやいやいや!」
 父親の青銀の髪を引っ張って駄々をこねている。
 あれは痛そうだ。禿げないといいなあ。せっかく綺麗だし。
 だが、人の姿をした中身は竜の青年は顔色をひとつ変えない。
「しばしの別れだ。さびしかろうが、お前は今よりもっともっと力をつける必要がある。人を伴侶に選んだのだからな」
 父親の説得にエルはおとなしくなった。
 そしてあたしを振り返った。
 涙にぬれた青い瞳があたしに真っ直ぐに向けられる。
 うわっ、勘弁して。
 芽生え始めていたあたしの母性愛に火が付きそう。
 胸がぎゅっと痛む。
「エル。元気でね、強く育つんだよ」
 この位は言ってあげてもかまわないよね。
 もう二度と会うことはないんだから。
「ウン、ヤァクショク」
 エルは今にも泣きそうな顔をしながらも何とか返事をした。
 相変わらずな舌足らずな口調で。
 ほんっとかあーいい。これで人間だったらなあ。
「それでは」
 美青年は片腕でエルを抱いたままもう片腕を上げる。
 今となってはおなじみの金色の光を発する。
 まぶしさに目をつぶった時だった。
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