竜の姫君
 思わず振り返ると、彼はすぐ後ろにいた。
 長身であたしの頭二つ分くらい高い。肩幅も広く体つきはたくましい。
 エルの父親の人間の姿は長身ではあったけれど、どちらかというと華奢でほっそりとしていた。こんなムダにデカくはなかった。
 非の打ち所のなく整った貌はまだ幼さを残していて、顔だけならあたしとそう変わらない年の少年、というか美少女に見えないこともない。金の髪と青い瞳はエルとまったく同じ色あいだ。血のつながりがあるとでも言われれば簡単に納得できる。
 エル本人だと言い張らなければ。
「なんでその名を知ってるの?」
 マルガリータはあたしの正式の名だ。
 でも、いつもはマルガで済ましているから、こいつがその名を知っているはずはない。
 しかし、この顔だけは美少年な若者は更なる爆弾発言をして下さった。
「それは、当たり前だよ。その名前を付けたのは僕だから」
「はあ?」
 なんでそうなる?
「実はここに来る前にマルガの生まれたときに行ったんだ」
「でもあたしの名前は父が」
「って、思い込ませてきたから」
「?」
「つまり、名を授けあう儀式は成立しているんだ」
 彼はじれったげに断言した。
 しかし……。
「?????」
 まてまてまて。
 それって一体どういうこと?
 あたしは今日この子に名を付けた。でもって、この子はあたしの生まれたときに戻ってあたしを名づけたと言い張っている。もしそれがほんとうだとしたら、あたしの名は……。
 え?
 ええっ!
 りっ、理解不能だ。
 そう言えば、エルの父君が言っていたなあ。あたしが認識してないだけだって、それはそういうこと?
 あーっ、もうわけわかんないよ。








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